〜朗読演奏会から〜  2010.11.8
先日、ピアノ:智内威雄さん〈左手のピアニスト),朗読:井野口慧子さん(詩人)による、 朗読演奏会に行って来ました。
智内さんは、才能溢れ、将来を期待され、華々しく活躍されていたピアニストでした。

しかし、ジストニアという病に冒され左手の自由を奪われました。
懸命なリハビリにより、日常生活には問題ないほど回復されたものの、 両手でのピアノ演奏者としての道は、諦めねばなりませんでした。
そこからまた、想像も及ばないほどの努力をされ、2003年より 「左手のピアニスト」として、ご活躍されています。
第一部は、井野口さんの朗読に合わせて、智内さんがピアノを弾くという、 なんとも贅沢な共演です。
井野口さんは、小泉八雲の作品と、ご自身の詩を二編朗読されました。
なかでも「呼ばれる」という詩は、井野口さんの想いに心を寄せてみたり、 私自身がまだ幼かった頃に、母から受けた愛情を、井野口さんの声を通して感じる事ができたり、 そして、私の娘がまだ小さかった頃の、私を見つめるまっすぐな瞳を思い出したりと、 心に沁みる作品でした。
第二部は、智内さんのピアノ演奏です。
智内さんの演奏は、ただただ素晴らしいものでした。
このままずっと、智内さんのピアノを聴き続けていたい…そんな気持ちになりました。

あんなにも、深みのあるピアノの音色は、聴いた事がありません。
何の楽器も弾けず、楽譜も読めない私ですが、ピアノの演奏を聴きながら、 涙が溢れてしまうほど、素晴らしいものでした。
演奏終了後には、お二方を囲んでのティーパーティーがありました。
せっかくの機会だったのに、生来の引っ込み思案から、直接お話しすることはできませんでしたが、 とても楽しいティーパーティーでした。
きっと絶望の淵に突き落とされた日々もあったと思います。
どうやって、そこから立ち直ってこられたのか……
どうやって、自分の身に起こった事を受け入れ、前に向かって進んで行けるのか……
「左手の演奏法があると知った時は、乾いたスポンジが水を吸収するかのごとく、 ただただ、ひたすらピアノを弾いていた」と印象的な笑顔で、明るく話されていました。

その強さの秘密を、もしも又、機会があったら、図々しくもお聞きしてみようかな…。

私の周りには、辛い目に合われながらも、同じ様に悲しみの中にいる人に手を差し伸べ、 様々な活動をされている方が、たくさんいらっしゃいます。智内さんもそんなお一人でした。
たくさんのお手本に恵まれた私は、(私の頑張りなんて、たいした事ないな…まだまだ 頑張る余地がたくさんあるぞ!)と、足取り軽やかに コンサート会場を後にしました。

                       E 記




便風とは
「びんぷう」と読みます。
意味は、「(1)追い風。順風。(2)便り。手紙。音信」を表します。
大辞林(国語辞典)